ゆるいボールだった。いつもなら、なんの問題も無いこのボール、掴んだと思っていたそのボールは地面に転がっていた。俺にとっての俺達にとっての最後の試合はそこで終わっていた、3年と言う長いようで短い時間はそこで・・・
悔しい!悔しくて涙が出そうだった!でも泣きそうになっている事が嫌で、何事もなかったように振舞っていた。自分が悪い。いや自分も悪いけど結果だから仕方ないじゃん、そんな素振りをしていた。
中学の三年間、一番仲がよかった裕樹が「お前悔しく・・・・・・」と言葉を詰まらせた。言いたい事は分かる。分かっているからこそ余計にこう答えた
「別に」
悔しいに決まってるのに、なんだこいつって思って少し裕樹にむかついた。そして、終わってしまった部活、そんな部活が終わっても顔を合わす機会は多い、でも、もう裕樹との距離は遠い、別に戻したいとも思ってなかった。
あれから5ヶ月、12月に入り進路の話で盛り上がっている時、ほとんど話していなかった裕樹が久しぶりに話しかけてきた。
「お前、高校行っても野球続けるの?」
突然だった事もあって
「お前に関係ある?」と咄嗟に答えた俺
「あぁそうだな」と言って、裕樹は教室を出て行った。
そう言わなきゃよかったとも思わなかった。そもそも野球がなかったらそんなに仲良しにならなかったのかな、なんて思っている自分がいた。
それから受験やら推薦やら私立やら公立やら、そんな話が飛び交い過ぎて行く時間、受験勉強に追われる日々を送っていた。
そんな俺も無事入学試験に合格した。地元ではちょっとした進学校で、自分でも頑張った方だなと思う。中学と同じ学区にある高校、自転車で行ける距離って言うだけで充分親孝行だな!
散りかけの桜を横目に少し緊張しながら、中学で一緒だった友達三人と新しい学校へ登校した。クラスの三分の一は同じ中学のやつだった為か、登校中に感じた緊張感はもう消えていた。
部活動の勧誘っていい気分だなって思う最初の一週間、ちょっと偉くなったような気がした。まぁまだ選ばなくてもいいや、勧誘される気分をもうちょっと楽しんでいようとそんな事を考えていた。
校舎を出て校門までの道、その横にグランドがある。そこで野球部が練習をしている、少し懐かしい気がするそのグランドを金網越しに見ている子がいた、裕樹だった。校門を出るためには、その裕樹のすぐ後ろ通らないと行けない。何も悪いことしていないのに、なんとか見つからないように通り過ぎようとした、その時、裕樹が振り返った。
あっっ!と思ったのはお互いだったと思う。
「智也」っと呼ばれた。まぁ俺の名前、ほんの一年前までは毎日何度も聞いたこの声
俺を呼んだ裕樹は、何か言いにくそうに、沈黙の時間が流れた。
野球部の掛け声が響く時間・・・・・・一息ついた裕樹はゆっくりと口をひらいた
「智也、あの時はごめん」
俺はなんと答えたらいいのか分からなかったから、何も言わなかった。
「俺、やっぱりお前と一緒に野球がしたい」
「あの時の事、謝っても許してもらえないかもしれないけど、俺やっぱりお前と」
言葉を詰まらせた裕樹。
別に裕樹はそんな悪い事をした訳ではないのに・・・・・・
あの時悔しい気持ちをみんな一緒だった
俺がすねていただけなのに、裕樹と共に過ごした三年間一緒にバカな事をして一緒に怒られて、一緒に同じものを追いかけていたのに・・・・・・本当に大事なものを失うところだったと気付いた。今だったら素直になれる
「裕樹、俺のほうこそ悪かった」
裕樹は少し涙ぐんでいたのかもしれない、それを隠すようにグランドの方を向き返っていた。そんな裕樹に俺はこう言った。
「なぁ裕樹今時間ある?」
「ん?」と裕樹
「もし裕樹が許してくれるなら、今から一緒に入部届け出しに行かないか?」
「俺も裕樹ともういちど野球がしたい」
裕樹はグランドの方を見たまま、「あぁ」
こちらを振り返って目線を俺に合わせた。少しゆるんだ口元、その顔は、ずっと一緒だった、いつもの裕樹だった。
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