今と言う時間

会社を辞めてきた。家庭がある私にとってそれはとても大きな問題だった。

今日は火曜日、今まで20年以上同じ工場に勤めていた。有給なんかもほとんど取った事もなかった私が平日のこんな公園のベンチの座っている事などありえるはずもなかった。時間は13時を過ぎたところ、実はもう3時間ほども座っている。

一時間に何個作れるかを競うように時間と機械に追われ、毎日毎日朝から晩まで同じ物を作っていた。平日の公園で3時間も何にも追われずに過ごした事なんてなかった。

コンビニで買ってあった、おにぎりを出して遅め昼食をとっていた。季節は5月、小春日和とは今日のような日の事を言うのだろうと思うような天気、まったく気付かなかったが、ふと隣におじいさんが座った。おじいさんと私が座っているベンチ、目の前には大きな池があって、その池を囲うように木の幹を模した柵が作られている。その柵と遊歩道までの間には大きな木が等間隔で並んである、その遊歩道を挟んだところにこのベンチがあって、とても穏やかに時が止まっているかような、そんな公園でおじいさんは腕につけた時計をやたらと見ていた。突然、おじいさんが

「なぁ年寄りの話し相手でもしてくれんかの?」

そう言われた私は少し戸惑ったが、まぁ特に恐れる事もないし、時間はいくらでもあるし、まぁゆっくり聞いてやろうと思い。

「いいですよ」と答えた。

「もし20歳に戻れるとしたら、今と違う道を行こうと思うか?」

いきなりすごい展開だな、こりゃ~昔話になりそうだと思いつつ、私は膝に肘をつけて前かがみになっておじいさんの話に答えた。

「そうですね。やりたい事をやれるだけやってみようと思いますね」

「どうしてじゃ?」と聞かれたので、どうして?って言われてもなぁ~と思いつつ

「20歳なら失敗してもやり直しはいくらでもきくし時間はたっぷりあるからね」と答えた

「そうか。今はもう時間はないか?」的確に言葉を返してくるおじいさんに私もきちんと答えていった

「私はもう45歳です。家庭もあって生活費も稼がなきゃいけないし、夢をみている年じゃないんですよ」

「そうか、守らなければならないものがあるんじゃの」

「そうですね。20歳の頃なら失うものもないですし、少々無理も出来ますからね。まぁ今思えば挑戦しておけばよかったかなとも思う事もありますが、さすがにね」

「なるほど、でも20歳の頃はそうは思ってなかったんじゃろ?」

「まぁ毎日遊ぶ事で精一杯だったように思いますよ、あの頃はね、仮に今戻ったとしても、やっぱり遊んでしまうんじゃないでしょうかね?」

「今はどうじゃ?」

「えっ!!今!?さすがに遊ぶ事に精一杯って事はないですよ。もういい年ですしね、色々と先の事も考えますよ。」

「えらく冷静に物事を判断出来るようになったんじゃの」とその老人は少し笑った

「人間関係や社会の事もまぁ色んな事学びましたよ」 と言いながら私は退職した会社での事を思い出していた。

おじいさんはどこか遠くを見るようにして、話を続けた

「わしはのぉ、遊ぶ事に精一杯で守るもののない20歳より、色んな事を学び、守るべきもののある45歳の方が、その夢や目標に近いんじゃないかと思っとるんじゃ。まぁアスリートのような体力の話じゃないならと言う事なんじゃがな、実際45歳の今は20歳頃に何が負けている?」

遠くを見たままのおじいさんは畳み掛けるように

「もし20歳の頃にチャレンジしておいたらよかったと思う事があるなら、今から始めてみたとしたらどうなると思う?その夢が叶う確率はどうじゃ?上がると思わんか?色んな事を経験した45歳のお前さんは20歳の自分に今、負けていると思うか?どうじゃ?その確立は下がるか?」

ただの年寄りの介護気分で聞いていた私は衝撃を受けた。今度はこちらを見て、そのおじいさんは更に続けた。


「ここからは、わしの作り話なのじゃが、わしが今から25年前にある老人からこんなものをもらったんじゃ」

そうゆうとおじいさんはポケットからボロボロの手帳を出した。そしてそれを私に渡そうとした。老人のペースに飲み込まれている私はなんのためらいもなく手帳を受け取った。見てもよいかと確認をとって、その手帳をパラパラと開いたほとんどが白紙だったが、最後のページに大きな字で・・・・・・(25年前に一時間だけ戻れる券)と書いてあった。

その下に使用方法もご丁寧に書いてあった。

それを私が見たのを確認して老人は話し始めた。

「さっきも言ったが、わしは今からちょうど25年前にその手帳をある老人からもらった、半信半疑だったが、その時45歳だった自分がすぐに使って25年前のわしに新しい道を歩ませようかとも思った、でもあの頃のわしは遊ぶ事に夢中できっと相手にしてもらえんと思い、一番価値のある時期にと思いその時をずっと待った。」

私は少し混乱していたが、真剣にこのおじいさんの話を聞いていた。

「わしは今70歳じゃ、この思いをきちんと受け止めてくれる時はいつか、色んな事を学び成長し人として力をつけれた時はいつか、そして夢を叶える時間が充分ある時はいつか、そしてこんな話でも真剣に聞いてもらえる時はいつか、それをずっと考えておった、そしてわしが出した答えは今じゃったと言う話しじゃ」

「あぁ~もうそろそろ時間じゃの」そう言って腕に付けた時計を見た老人は立ち上がり、歩き出そうとした。

「あの!」と聞きたい事が山ほどある私、それをさえぎるように老人は、さっきより強い口調で話し始めた

「お前さんが20歳に戻ったら挑戦してみたかった事とは何だ?今から挑戦したらダメなものなのか?今からでも出来ると思わんか?わしは今が一番始める時じゃと思っておる!お前さんのその夢は必ず叶う!わしが約束する!嘘か本当か今の地点では分からんじゃろ?どうじゃ?」

確かにと納得させられている自分がいる、よく20歳から10年頑張ってみてダメだったら諦めるなんて事を言って夢を追いかけている人はよく聞く。でも45歳から10年頑張ってみてダメだったら諦めるとか言ってる人は聞いたことがない。人生経験の多い45歳の方が可能性が高いような気がしてきているのに、みんな諦める方を選んでいる事の方が多い。そんな事を思っている間に、おじいさんは更に続ける。

「行動を起こさない人が夢を叶える確立は0%だ、じゃがな行動を起こした人が夢を叶える確立は少なくとも0%では無い。この差がどれだけ大きいものか分かるか?0%を1%に変える力、そのきっかけは人生のどこかで必ずある、もしその可能性を1%に変えれた時、今度はその行動を積み重ねて確立を少しづつ上げて行くだけの事だ。」

「お前さんが70歳になった時に、あぁ~あの時だったらまだ挑戦出来たのになぁ~、なんて今みたいな事を言うぐらいなら、今から挑戦して70歳になった時に、あの老人に騙されたなと言うような人生の方が楽しいと思うぞ!」

「まぁ年寄りの作り話じゃ。どう捕らえるもお前さん次第、結果が分かるのも25年後、どう行動するのもお前さん次第じゃ、今から楽しみじゃの」

そう言って老人は振り返って歩き始めた、そして小さな声で

「お前さんが70歳になった時、その手帳を使って25年前のお前さんに」

そうつぶやいて、そのまま老人は歩いていった。

もう追いかけようとは思わなかった。しなければならない事が他にある、そう強く思った。

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ABOUTこの記事をかいた人

石橋を叩いて壊す。渡らなければ怪我はしない。そんな生き方をしてきた私が、何を思ったのか新しい事にチャレンジしてます。いつか短編小説を本として出したいと言う目標を持って小さな一歩を踏み出しました。パソコンが得意では無く、もちろん物語など書いた事がない私がブログ書いて行こうと思います。