本当の仲間

ジャンプをしながら、ボールを受け取った、そして、そのままゴールへと投げ入れた。仲間とハイタッチを交わして、喜んではいるが、試合は負け試合だった。

俺はこのバスケ部でキャプテンをしている。三年生は全員で八人。自分を含めた三人はエース組と呼ばれていて近くの高校からもちょっとは名が知れている。でも、あとの五人は使い物にならない。決して見捨てているわけではないが、どれだけ教えても成長しない、正直諦めている。でも試合は最低でも五人、補欠も含めたら、この使い物にならない五人をまったく使わない訳にも行かないのが今の悩みだ。一年と二年にも有望なやつがいない。自分たちの最後の大会は、こんなメンバーでやるしかないのか、と最近はこの五人に嫌悪感を持っている。

「なぁお前ら次の大会が最後なんだ。もうちょっと頑張ってくれ!」と、俺はその五人に強く言う

「まぁ俺達も一生懸命やっているけど、やっぱりお前らとは同じようには出来ないよ」と、弱気な事を言ったのは、この五人の中で中心になっている健太だ。あとの四人は健太の後ろで頷いていた。

「そんなんだからお前らはダメなんだよ!」と言い放って、俺はエース組の二人の方へと歩いていった。

「あいつらはやっぱりダメだ」と言って三人で練習を始めた。バスケの事となればこの三人はいつも団結出来ていた。その反面、健太達の五人とは少しずつ距離が出来てくる。

「最低でも、あと二人ぐらいがもうちょっと出来れば、俺達はいいところまで行けるはずなのに・・・」

こんな風に思っていた俺達。練習も終わりエース組の三人で一緒に帰っていた。 俺は忘れ物をした事を思い出して、取りに行くからと言ってその二人と別れた。体育館には正面からと裏からと入り口があり俺はいつものくせで校舎の裏から体育館を目指す。渡り廊下を越えたあたりで、体育館の明かりが見えた。

そこには健太達五人がまだ練習をしていた。「まだやっていたのか?」そう聞いた俺。きまり悪そうに「あぁ」と答えた健太。

荷物を持って帰ろうとした時、健太が「なぁ少し練習に付き合ってくれないか?出来れば指導してほしいんだ!」

もう諦めている俺だったが、「わかった」と言って、五人の練習の指導を始めた。同級生だから、そこには上下関係のようなものは無い。相手ももちろんタメ口なんだけど、今はちょっと違う。俺が監督のような立場となって五人に練習させた。ほとんど無理なレベルの練習をさせては「出来てない!」と怒鳴ったりしていた。体育館の真ん中に椅子を置いて、腕を組んで無理を言って怒鳴る。そして最後にやっぱりお前らはダメだなと言って、そのまま帰った。俺にとっては、ただの憂さ晴らしだった。その帰り道、いいほど憂さ晴らししてきたはずなのに、それでもイラついていた。イラつきは納まるどころか更に大きくなっていた、その時、俺は信号を見ていなかった。

まだ5時なのに外は少し暗くなってきた。明日は強めの雨が降る予報らしい。そんな薄暗い外の事なんかお構いなくに体育館の中は明るく照らされている、そんな体育館の隅からバスケ部の練習を見ていた。車椅子に乗っている俺は当分の間、歩く事は出来ないと言われている。もうすぐ最後の大会があるというのに。エース組二人と健太達五人が練習している風景を見ながら自分もまだバスケ部の一員だと思っていた。残りの七人いや正確にはエース組は二人で、あとの五人は五人でと言った感じだった。休憩中に俺はエース組の方へと寄っていった、自分はまだエース組だったから・・・

「なぁ、あいつら、なんとかなりそうか?」と聞いた俺、エース組の二人は顔を合わして何も言わずに練習に戻っていった。その時始めて気付いた。いや今まで気付かなかった方がおかしい、だって自分だってそうだったじゃないか?バスケが上手いからエース組なんだ、バスケが出来ないやつに自分は何をしてきた?そう考えたら、あの二人の行動は、当然の事・・・

最後の大会に俺達は何もかもを賭けていた、バスケだけがすべてだった、出来の悪いやつを憎み見下していた。そう今の自分は出来の悪いやつになっているのだ。自分はもう最後の大会には出られない。必要ない人間・・・そう感じた俺は体育館を離れた。いつも通っている裏の通路、そこから帰ろうとした時、いつもはまったく気にならないそれ、当たり前のようにそれはあった。三段ほどの階段。正面の通路から行けばスロープがあったのに、いつものくせでこちら側にきてしまった。今の俺はこの階段さえ上れない。脱力感と無力感が一気に襲ってきて何もかも失った気持ちだった。戻ることも忘れてただ、そこに居続けた。その時、車椅子が持ち上がった。それも軽々持ち上がった感じがした。その持ち上がった車椅子は三段上の渡り廊下を越えて、向こう側の通路まで運ばれていた。もう分かっている。運んでくれたのは健太達だった。

「いけるか?」そう聞いてくれた、健太。

「俺の事、バカにしているのか!」そう強がった俺。

「そんなんじゃないよ」と返した健太。

そして健太がこう話し始めた。

「今、キャプテンがバスケが出来なくてどれだけ苦しいか俺達は分かっているつもりだぜ、だからこそ俺達がなんとかしなきゃって思うんだ。」

健太はそう言うと携帯を取り出した。学校には携帯を持ってくる事は禁止されている。そんな携帯を俺の目の前に見せて、

「キャプテンも持ってるよな?」ルール違反なのは分かっていたけど、俺もこっそり携帯は持っている。まぁ実際はほとんどの生徒がばれない様に持っているのだ。

「もし自分一人で行けない場所があったら、俺達にLINEしろよな、同じ学校にいるんだ。すぐに来てやるよ。」そう言ってその携帯をさわり始めた。

俺のLINEが鳴った。健太からだ「ほんとに言ってこいよ、遠慮なんかするなよ」そう入っていた。携帯を見ている俺の後ろから健太は

「もうすぐ大会があるだろ、俺達がキャプテンの穴を埋めなきゃって思ってるんだ、それが無理だって言われても、出来る限りやってみようと思っている。ほんの少しでも勝てる可能性を上げたいんだ。だからお願いがある、もしキャプテンがよかったら、みんなの練習が終わってからでいいから、また指導してくれないか?帰りは家まで送って行くからさ」健太はそう言った。

あんなにひどい事をしてひどい事を思っていた俺に・・・どうして・・・

「俺達が出来てなかったからダメだったんだ、だからキャプテン達エース組に迷惑をかけていた。それだけの事だ、キャプテンは何もひどいことなんてしていないよ。あの夜も一緒に練習付き合ってくれたじゃないか?、その怪我の時だって。俺たちはキャプテンに感謝してるし、正直その怪我だって俺達にも責任あるって思ってるんだ。だから大会まであと少し、俺達のコーチをしてくれよ」

そう言われた俺。俺は今まで本当にひどい事をしてきた。ただバスケが出来るからと言って出来ない人を見下して、バカにしていた。一生懸命やっている事を見ずに結果だけで、バスケの力量だけで判断していた。でもそんな健太達はただ純粋に困っている俺を助けてくれている。俺の事を思ってくれている。そう思うと涙が溢れた。。。そして、その涙を拭きながら

「俺の指導は厳しいぞ!」涙を流しながら言っている俺に説得力はなかったのかもしれないが

「よろしく頼む」と答えてくれた健太、そして健太が続けた。

「そのかわりと言っちゃなんだけど、車椅子で困った事があったら、本当に遠慮なく呼んでくれ、キャプテンに恩返ししなきゃお互い様にならないからな」

そう言って体育館へ戻ろうとした健太を呼び止めた。

「なぁ健太!車椅子で困ったらいつでも呼んだらいいんだよな」

「あぁ遠慮なくいつでも言ってくれ」

「じゃあ悪いけど、今から体育館へ戻りたいから、この渡り廊下もう一度運んでくれないか?」

肩を回すようにしながらこちらに近づいてくる、俺の肩を叩いて、「ありがとう」と言って、健太達は車椅子を持ち上げた

もう真っ暗になった学校の校舎、体育館の明かりが入り口から漏れている

「今日は遅くなりそうだ」

0
このエントリーをはてなブックマークに追加

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

ABOUTこの記事をかいた人

石橋を叩いて壊す。渡らなければ怪我はしない。そんな生き方をしてきた私が、何を思ったのか新しい事にチャレンジしてます。いつか短編小説を本として出したいと言う目標を持って小さな一歩を踏み出しました。パソコンが得意では無く、もちろん物語など書いた事がない私がブログ書いて行こうと思います。