いつかきっと

教室の片隅、僕は本を読んでいた。GWが過ぎて、クラスにも少し馴染んで来た5月も終わる頃、窓際の席に座っている僕、左を見たら運動場、右を見たら、みんなでワーワーと楽しく過ごして人達。羨ましいとは思ってない。何故なら僕は本が好きで本を読んでる時間が一番幸せなのだ。だからそれ自体は気にならなかった。間違いなくそうだった。今までは、だけど今は羨ましいと思ってないと言い聞かせる努力をしても抑え切れないぐらい、羨ましい。羨ましいのはみんなのワーワーでは無い、その中で一緒になって笑っている、あの子。あの子が楽しそうに笑っているその表情が本を読む事を超えて一番になってしまった。

中学三年の春、今までこんな気持ちになったことはなかった。こうゆう話は友達に聞いたり、小説で読んだりして、恋愛感情と言うイメージはあった、でもそれを自分は持ち合わせていないと思っていた。今は確信出来る。その感情は僕の中にもあった。そしてそれをどう抑えていいか、分からないほど、あの子から目が離せない。だからと言ってずっと見ているわけにもいかない。休み時間になったら本を読んで気を紛らわす僕、この気持ちが始まってからと言うもの、実はもう本の内容が頭に入っていない。本は形だけで、時折、あの子を見ているだけだった。これだけ聞けば、ちょっとヤバイ人にも思えるだろうけど、僕達は違う。よく小説で見かける圧倒的にかわいいあの子とまったくモテる要素の無い男、そんな差がある二人では無いと自分では思っている。だって僕は普通に友達もいるし、あの子とも普通に話もするし、あの子だって休み時間に本を読んでいる事もある。あの子がGW前に読んでいたその本は僕も大好きな本だったし、なによりも、あの子がGW明けてすぐに僕が読んでいた本を見て、

「あ~この本私も読んだやつだ」

本を斜めにして読んでいた僕のその本を彼女が少し持ち上げて表紙を確認した

「どこまで読んだ?」と聞きながら、僕が開いているページを見て「まだそこか~これからだね」っと屈託のないとはこうゆう表情なんだなと思う顔をして笑った。

「正樹くんナイスチョイス」と親指を立てて言った。そしてあの子、いや、彼女はみんなの中そのワーワーの中に入っていった。

どうだろう、この出来事は僕にとって、いや誰にとっても十分すぎる理由のはずだと思っている。彼女も決して僕の事はゼロでは無いんだと思った。まったくのゼロの相手にわざわざあんな事はしない。少なくとも僕ならば、そんな事はしない、彼女にとって、僕は、そうゼロでは無い。

そう感じたあの時を境に彼女の事が気になり出す、気になり始めると、こんなにも急激に感情は進化していくのか?初めて知った。小説の中での恋愛感情は知っているけど、実際にはこんなに一気にくるものなのかと戸惑っている。しかし、もう一度言うが、僕が知っている小説の中での圧倒的な差がある二人では無い。彼女の好きな本と僕の好きな本は同じなんだ。そして普通に雑談も出来る。普通の雑談って言うのも、このクラスになった時の最初の席は彼女が隣にいた、みんなが慣れない新しいクラスの浮ついた感じのその時に結構、話をしたんだ。4月が終わるまでは彼女は僕の隣にいて、いっぱい話をしている。でも、こんな出来事だけで圧倒的な差では無いなんて思っている自分はきっと圧倒的な差なんだろうな、分かっているけど、それを認めてしまうと、もう彼女は遠く離れてしまうのではないかと不安になるから、だからそう思うようにしていた。本当の気持ちはどうせ僕なんか無理に決まってるって分かってる。でもどうせ僕なんかって思って消えるほど彼女の事は軽くないんだ。彼女ともっと話したい。もっともっとあの笑顔が見たい。その気持ちが減る事はなかった。毎日増えて行く感情。


彼女がいいね、と言ってくれたあの本は読み終えた。今はまた違う本を読んでいる。この本を読みながら、また彼女が来てはくれないだろうかと、彼女がまた、「あ~この本も私好きな本じゃ~ん!」なんて展開にならないだろうかと、そのワーワーの中をちらちらと見ている。そう思いながらも、もう実は最近彼女と話していない。あの出来事からもう二ヶ月も経っていて、僕は違う本を読んでいる、これはもう4冊目だ。ただ彼女に「この本もいいじゃん」って言ってもらいたいだけで選んでいる本、4冊共、内容はまったく分かっていない。彼女からのアプローチを待っている日々、そんなアプローチは今日もなかった。こうなると恐ろしいほどに、どうしても彼女と話したいと思ってくる。今までは小説を読みながら、そんな感情になるわけ無いじゃん、さっさと忘れてしまえばいいのになんて思っていたが正直、そんな事、出来そうな気配はまるで無い。押し寄せてくるその感情は自分の心の中でとてつもなく大きくなって自分ではどうコントロールすればいいか分からなくなってくる。つらい・・・・・・

5冊目の本を探していた。彼女に気付いてもらう為に、もっと彼女が好きそうな表紙の本を、そう今までの4冊も同じような選び方、そして今回、手に取った本は「いつかきっと」そんなタイトルの本だった。表紙に丘の上から見える町並みとその町並み向こうに海が、柔らかいタッチで描かれている。表紙の上半分は海が描かれているため本自体は青色の絵の具を水で溶かしたような綺麗な色をしている本だった。帯には、出会ってしまった二人の切なくも温かいストーリーなんて事が書かれていた。しかし帯の内容なんてどうでもいい、問題は表紙だ。今度こそと思い、その本を買って帰った、今度こその目的がおかしいのは分かっているが仕方ない、それしか考えられないのだ。次の日の休憩時間、窓際のカーテンが揺れる横で、僕はわざと表紙が見えるように読み始めた。彼女をチラチラと見ながら、本を読む、彼女をチラチラと、本の内容はまるで入っていない。そして、一日が終わろうとしていた。このまま帰ると、また違う本を探しに行ってしまいそうな自分。最後のホームルームが終わった、みんながゾロゾロと帰っていく、彼女はまだ机の中の片付けをしていた、今しかない、何がそう思わせたか分からないが、その時は今しかないと思った。

「ヒカリちゃん、まだ帰らないの?」

「え!?あっ!うん、ここ片付けたら帰るよ、どうしたの?」

「ううん」

自分から話しかけといて、次の用意が無い事に気付いた。話しかけると言う事にすべてを賭けていたから、どうしたの?って聞かれても答えような無い

「いや、その、ま、前にさ~本の話したじゃん?あの、あの本、面白かったよ」これが限界だった

「あの本ね、よかったでしょ、私もあの本好きだったからつい言ってしまった、ごめんね」

やっぱり楽しそうに話してくれる。でも、次が出ない、どうしよ、少し前なら、普通に話せたはずなのに、言葉が出ない・・・・・・

「あの、え~っと、この本読んだことある?」って今自分が持っていた本を出した。

「え!?ううん!読んだ事無い。いつかきっと?表紙の雰囲気いいね、どうよかった?」

表紙の雰囲気いいね。この言葉が僕の勝利を確定させていた。そう思った僕は、ちょっとかっこつけてクールにこう言った

「あの本が好きなんだったら、この本もいいと思うよ、もしよかったら読む?」

「借りていいの?読む読む!ありがとう、正樹くん」

また、あのどう扱っていいか分からない最高の笑顔がそこにあった。そう僕にとっての最高の時間

僕は彼女に「いつかきっと」を手渡した。「読んだら、また感想言うね」と言って彼女は帰った。

最高の時間、そんな嬉しい気持ちも彼女がいなくなったその瞬間から、一気に現実に戻される、非常事態だ。そう僕は、あの本を読んでいない。もしヒカリちゃんと仲良くなるとしたら、あの本が帰ってくるその時がチャンスなんだろうけど、内容を知らない、そして僕は今、お金を持っていない、本屋は学校の近くにあるけど家の近くにはない、そして一番怖いのは、あの本の内容だ。僕は「前の本が好きなら、この本も」と言ってヒカリちゃんに渡してしまった。それが一番の心配。悩んでいても、仕方が無い。とりあえずやれる事は全部やっておこう。まずを家までお金を取りに行く戻ってきて、同じ本を買う、すぐに家に戻って、その本を読む、今日中に終わさないと、明日ヒカリちゃんが持ってくるかもしれない。もうこんな事をしていられない。僕は慌てて帰った。外は7月にはよくある雨だった、今日は傘も持っていない。でもそんな事を言っている暇も無い。雨に濡れながら、走って家を目指す、もし本屋さんにあの本がなかったら、もしあの本が面白くなかったら、そう思うとドンドンと足が速くなる。不安は更に大きくなって行く。家に帰ってお金を持った、自転車に乗って今度は本屋を目指す、雨なんて気にならない、服はビショビショに濡れているけど、そんな事はどうでもいい。そして本屋についた。あの本は?「いつかきっと」は?平積みしてあったその本はしっかりと同じ場所にあった。濡れないようにビニールで包んでもらった。家に帰った僕はご飯も食べてお風呂に入ってすぐにその本を読み始めた。

普段から本を読んでる僕が本を読み終えたのは夜の2時頃だったが、その内容はとても寂しい内容だった。冷静に考えたら、「いつかきっと」は楽しい内容ではない可能性を踏まえておかなければならなかったのだろうけど、目的が間違っていた僕はその事には気付かなかった。お互いの思いが叶わなかった二人の約束「いつかきっと」そして二人は強制的に離れてしまう。そんなちょっと悲しいお話。これはヤバいと思ったが、もう渡してしまっているから仕方がない。ヒカリちゃんの感想を待つしかなかった。

次の日、いつもと同じように僕は、窓際の席で、また違う本を読んでいる、ヒカリちゃんはと言うと、いつものワーワーの中にいる。今までと同じ風景、僕が読んでいる本は今まで以上に頭に入ってこない。まぁあの本もゆっくり読めば一日ではちょっと無理かなって思ってみたり、まだ読んでいないのかなと思ってみたりして、その日を過ごした。次の日、そしてまた次の日とは毎日が変わりなく過ぎて行く、ヒカリちゃんからは何も言ってこない、こんなに待っている感想が無い。あれから五日が過ぎた。忙しくてまだ読めていないんだと決め付けるしかなかった。最近、自分の体調が悪くて休憩時間は机に伏せて過ごしている。ヒカリちゃんも元気がなさそうに見えた。あまりの体調の悪さに僕は早退をした。次の日、学校を休んだ僕、熱が高くて頭も痛い、7月も半ばに差し掛かるこんな夏に僕は肺炎になってしまっていた。病院を訪れていた僕、入院が必要と言われ、最低でも五日間の入院が確定した。

点滴がついた腕、学校と同じような窓際にあるベット、指の先に挟んだ何かはベットの横にある機械に繋がっていて常に僕をチェックしている。病院にいる時間は不思議とヒカリちゃんの事は気にならなかった。お互い連絡先の交換もしていなければ、家がどのへんかも知らない、共通の友達なんかも、もちろんいない。学校の休憩時間だけの関係だから、今の僕はヒカリちゃんとの接点はゼロになっている、だからなのか今は気にならなかった。

僕が休んでいる間に学校は夏休みに入っていた。退院したのは7月の後半、学校は夏休み、僕が久しぶりに学校に行ったのは8月の最初の登校日だった。

最初の1ヶ月で一回目の席替えがあって、次の席替えは2学期の最初なので登校日の今日はまだあの窓際の席だった。そこに座って久しぶりの友達とも色々話した。そこで僕は衝撃の話を聞いた。

高山がお父さんの仕事の都合で1学期で引越ししたと言う話、1学期の終業日に高山が先生に促されて、前で挨拶をしていた。先生は知っていたけど本人の希望で生徒達には言わないでほしいと言う事になっていたらしい。引越しはもう4月には決まっていたみたいで、高山も寂しかったって言ってた。と言う内容を今聞いた。

みんなからしたら、あのワーワーの中の一人の高山かもしれないが、僕にとっては大切なヒカリちゃんだ!心ではそう叫んでいた、口では「ふ~ん、そうなんだ」ってさほど気にしていない風にしていたがこの感情を隠しきれた自信は無い。授業が始まり、宿題の提出やらなんやらと取り決められた予定が淡々と進む、心ここにあらずとは今の事を言うのだと思って何も考えられずに、何をしたかも分からずに、登校日は終わった。時間はまだ11時、みんなが帰って行く中、僕は、この窓際の席に座っている。教室の中も人がまばらになってきて最後は僕一人となった、おもむろにポケットからスマートフォンを出して、あの時連絡先でも聞いておけばよかった。そんな後悔をしても、もう遅い、調べようもない何かを検索していた。もう僕には連絡するすべもない。どうやってもヒカリちゃんには会えない。でもよく考えたら、ただちょっと喋っただけの関係、僕が勝手に好意を持ってしまっただけの人、そもそも貸した本すら戻って来ていないし。冷静に考えれば、クラスメイトが学期末に転校しただけのお話、小説では何度も読んだこんなシーンよくある事だ。ただ今回は小説ではない。これほどまでに辛いとは思わなかった。活字では表現しきれない感情がある事を知った。

どれくらいそこにいたのだろう、いつまでも座っていても仕方ないし、帰ろうと思ったその時、机の中に何か入っている事に気付いた。

あの本だ「いつかきっと」そしてその横にもう一冊の本があったタイトルは「君と出会えてよかった」

そしてその「いつかきっと」には手紙が挟まれていた。僕はその手紙を開けた


森川 正樹 様

本を返すのが遅くなって、ごめんなさい。

この本を読んだ時、私は、正樹君が私の転校の事を知ってるのかな?って思って戸惑いました。

感想を書こうにも、正樹君が、転校の事を知っていたのか、知らなかったのか、気になって書けずにいました。

転校の事は先生以外には誰にも言っていなかったので、きっと正樹君も知らなかったよね。

1学期の終業日に正樹君に手渡しで、この手紙と一緒に返そうと思っていたけど、会えなかった、少し寂しかったです。でも病気だから仕方ないよね、早く良くなってくれる事を祈っています。

このクラスになってから正樹君といっぱい話したよね、この人と話してたら楽しいって思っていました。3ヵ月後にはお別れしなきゃいけないのに、そう思うと辛くて、だから転校の事は誰にも言わないでほしいと先生にお願いしました。だってなんか特別扱いみたいにもなりたくなかったし、私は出来るだけ普通に過ごしたかったから・・・・・・

正樹君はいつも本を読んでいたね、私も本が好きだから、本当はもっと本の事を話たいと思っていたんだけど、なかなか話せなかった。席が替わってから、私は一回だけ勇気を出して話しかけたんだよ、覚えてる?正樹君はあんまり変わらなかったから、ちょっとショックでした。正樹君が読んでいた本、4月からの分、全部読んだよ。正樹君が読んているタイトルをこっそり見て本屋さんで探した。全部よかった。やっぱり正樹君とは合うんだね。そして最後のこの本、貸してくれたあの日、すごく嬉しかった。本当は手元に置いておきたいんだけど、これは貸りた物だから返しておきます。私にとってはちょっと悲しい内容だったから、まだ買ってないんだけど、いつかきっと私の本棚にも並べようと思っています。思い出の本だからね。

最後に、もしよかったら、私のお勧めの本、読んでみて下さい。この本、正樹君も気に入ってくれたら嬉しいです。その本を読んだら、ちゃんと返して下さいね。私の新しい住所を書いておきます。私は正樹君と出会えて本当によかったと思っています。

高山 ヒカリ


僕は今まで色んな小説を読んだ、でも小説は所詮は小説、本物の感情はそんな言葉では表せない、それを自分は今、実感している。今まで見るふりしかしていなかった4冊の本と机に入っていたこの本はたぶん今日中に全部読んでしまうだろう。そう思ってヒカリちゃんが貸してくれたこの本を手にとった「君と出会えてよかった」その表紙には男の子と女の子が手をつないで向こう側へ歩いている絵がクレヨンのようなもので描かれている。その本を眺めながら僕は、ヒカリちゃんに、いや、ヒカリに早く返事を書きたいと思った。そうだ返事を送る時に新しい本も一緒に送ろう。そう考えた僕は今度は表紙ではなくタイトルで選ぶのだろうなと思いつつ、頭の中でどんなタイトルがいいか考えていた。今の僕の気持ちに合うタイトルを探しに、まだ読んでいない4冊の本ともう1冊ヒカリから借りた本を持って、更に新しい本を探しに僕は本屋へと向かった。

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石橋を叩いて壊す。渡らなければ怪我はしない。そんな生き方をしてきた私が、何を思ったのか新しい事にチャレンジしてます。いつか短編小説を本として出したいと言う目標を持って小さな一歩を踏み出しました。パソコンが得意では無く、もちろん物語など書いた事がない私がブログ書いて行こうと思います。