継承する思い

工場の屋根の上から深く紅葉した山々が見える。この景色はすごく綺麗だ。しかし、もう心は折れている。1年間も無職だった自分がやっと就職したこの会社。今日が終われば、辞めると今決めた!建設現場の会社だったが自信を持って言えるここはきっとブラックだ。

まだ勤めて1か月も経っていないが、とにかく先輩の人達が怖い。口調も怖いし見た目も怖い。毎日怯えて過ごしながらも一生懸命仕事を覚えようとしていたが、もう今日で終わりだ。そう誓ったのがこの現場。僕達が乗ってきた大きめの箱バンは山道を走り、現場付近のコンビニでクレーン車と待ち合わせる。もうこの辺にはこのコンビニと民家が少ししかない。あとは山だ。田舎にもほどがある。そんなコンビニから更に山奥へ車で10分ぐらいの場所に今日の現場があった。ここで大量の鉄パイプのような物をを下し、作業員を4人だけを下ろした、クレーン車で僕はこの工場の屋根に釣り上げて、工場の屋根の上に下ろされた。そしてそのクレーン車と僕達が乗って来た箱バンは違う現場へと行ってしまった。違う現場で作業して15時に迎えに来てくれるらしい。どうゆう事か分かるだろうか?自分では昇り降り出来ない、この大きな工場の屋根の上に乗せられて今から、資材の引き上げ作業をしろと言うのだ。それも上にいるのは僕一人!この会社はバカだと思う。なんと携帯トイレも持たせてくれるバカさ加減だ。 下には、その怖い先輩達が3人いる。結構な山奥にあるこの工場で年に一度のこの作業。先輩達は毎年の事なので段取りは分かっているようだった。これはイジメだと思った!だから決めた今日この現場が終わったら辞めると!

「今日は新人が上か」下の方から笑い声が聞こえる。声は聞こえるのだが工場の周りは大きな木に囲まれている為、下の様子は分からない。ただ声だけが僕の耳には届いていた。下の様子が分からないから、太いロープが下からクイクイとひっぱられる「おーい新人早く上げろ~」そう言われて、重い荷物を引き上げていく、ほとんどが鉄パイプだ、それを上げてはロープを下ろす。しばらくしたら、また引き上げる、こっちのタイミングはほとんど無視だ。ロープを下ろしても中々下の用意が出来ない事もあるくせに、僕が引き上げに遅れたら、怒ってくる。きっとあいつらは下で休憩してるんだと思っている。一人で荷物を引き上げてはロープを下ろす。引き上げた鉄パイプは工場の屋根の上に並べて行く。明日、全員で来て組み立てる。その為の準備の日らしいが、まぁ僕に明日はない!

下からは、怒鳴り声と笑い声が繰り返されている、場所もここだけじゃなく工場の裏の方で声がする時もある。工場の裏には道はない、そうただの山だ。やっぱり遊んでるに違いない。

「おーい!新人、お前弁当はどこにおいてるんだ!」そんな声が聞こえてきた。

あ!!っと思った僕、乗せてきてもらった車に忘れてきた。一瞬焦ったが、焦っても仕方がない。なんと言っても僕は自力では降りれないし、

「すみません、車に忘れました」そう大きな声で言った僕。下ではみんなが笑っていた

「車に忘れたんだってよ~バッカじゃね~の!」大きな笑い声がまた山の裏側の方へと移動して行く。

「まぁいいじゃね~か、15時ぐらいにはトラックも戻ってくるし」誰かがそう言えば、また笑いが起きる。

辞める決意をしているとは言え、まだ11時、もう今にも帰りたい。そう思いながらもロープを下ろして待っている僕・・・・・・結局僕みたいなやつがいつも損するんだ、そんなに思っても結局ロープを下ろして、真面目に待っている自分、しばらく待っても荷物は用意されていない。仕方なく、ロープが引っ張られるまで、景色を楽しんでいようと思って辺りを見回してみた。こんなに綺麗な山を見たのは始めてかもしれない、いや、そうゆう気持ちで山を見た事がなかったのかもしれない、強制的にこんな場所にいなければならない事でもない限り、秋も終わりに差し掛かるこんな季節に好き好んで、ゆっくり山を見ていようとは思わないものだ。寒いし。

下から何やら声が聞こえる

「そうじゃね~だろバカ、もっと大きくグルグルにしないと入らね~じゃないか!バカ!」と笑い声が起こる

「グルグルは二個作れって、こっちのグルグルはちょっと大きめって言ってるだろうが、お前は下手か!」って怒鳴り声が

「早く書けって」ってまた笑い声

「はい!お前バツゲームね、脱いで下さい」

下では遊んでいるようにしか聞こえない声、今までは疑いだったが、それはもう確信に変わった。もう自分の存在さえも忘れられている、そう思った、でも、こっちから言わなかったらずっと休憩だし、どうせ、下もサボっているんだ。まぁいいやって思い、山の景色を見ている。緑のままの木もあれば深い赤色に染まっている木もあって、みんなそれぞれに自分の個性を持ってしっかりと生きているんだななんて、そんな風な事を考えていた。今日は朝より昼の方が冷えるのかな、少し寒くなってきた僕、ふと立ち上がり屈伸運動をしたり走る真似事をしてみたりして体を温めた。そんな時、ロープが引っ張られたやっと仕事を始めたか、そう思いロープを引き上げた。

ロープの先には木の板が傾かないよう4点を上手に結んでその木の板の上に固定されたダンボール箱が付いていた。その下には更にロープが続き、かなり厚みのあるダウンジャケットがくくり付けていた。両方とも引き上げた僕、木の板の上についたダンボールを開けた。

木の板がプレートの役割をして回りをダンボールでカバーしてあった、その中にはコンビニのお弁当が入っていた。プレート右上にはハリガネをグルグルに巻いて作ったジュースホルダー、ペットボトルのお茶が入っていた、左上には同じくジュースホルダーのようにグルグル巻いているんだが、そこにはカップのお味噌汁があった。そのふたを開けた時、色んな事が気になった。このお味噌汁温かい、お弁当も温かいし、お茶も温かい。

どうして??疑問が疑問を呼ぶ、車はないし、コンビニもさっきのところしか、あの車で10分以上かかったあのコンビニ・・・・・・訳が分からなかった。その下にくくり付けていたダウンジャケットには手紙が付いていた。お世辞にも綺麗な字とは言えないが

「飯食ったら体冷えるから、これ着とけ」と、こう書いてあった。

僕はその温かいお弁当を食べた。温かいお味噌汁は僕の体も心も温めてくれた。温かいジャンパーを着て、休憩していた。今もまだ頭の中は混乱している。1時間ほど経って、「おーい早くロープ下ろせ」っといつもと同じ怖い声が聞こえてきた。慌てて、お弁当セットとダウンジャケットを下に降ろした。

15時を過ぎた頃、朝のクレーン車と箱バンが戻ってきて、僕は6時間ぶりに地上に降り立った。すぐに今日、下にいた人達にお礼を言いに言った。そしたら、みんな口々に

「なんの話だ?寝ぼけてんじゃねーのか」とまた大きな笑い声が起こった。

次の日、僕は、この現場の組み立て作業をしっかりと覚えようとしていた。昨日は知らなかったが工場の裏、道無き道のその奥には僕が引き上げた鉄パイプの何倍もある量の鉄パイプが運ばれていた。

 

あれから10年、年に一度だけなんだけど毎年、この現場作業をしている。この時期のこの現場のこの景色が僕は好きだ。

今日は新人がいる。

「新人は上な!」と僕はその新人に言った。「はい」と答えた新人、少し笑いが起こった。

現場作業を始めて2時間、新人はきっと辛いだろうなと思いながら、

「おーい新人、お前弁当は?」そう聞いた僕

「あぁ車に忘れました、すみません」って言う声が上から聞こえた。

「バカじゃね~の」って僕が言った、そしてみんなで笑っていた。

10年前のこの事を知っている先輩が二人いる・・・

「僕、ちょっと行ってきます」

「お!じゃ頼むわ。歩きはまぁまぁ遠いぞ」そう言った先輩が更に続けた

「出来るだけ温かいやつ食べさせてやりたいから、帰りは味噌汁をこぼさない様に走って帰ってこいよ。お前の時もそうしたんだぜ」

10年前、僕の為に味噌汁をこぼさないように走って買ってきてくれた人がいる。あの時と同じように、今日もとても冷え込む、温かい弁当と味噌汁、買ってきてやるからな、頑張れよ新人。

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ABOUTこの記事をかいた人

石橋を叩いて壊す。渡らなければ怪我はしない。そんな生き方をしてきた私が、何を思ったのか新しい事にチャレンジしてます。いつか短編小説を本として出したいと言う目標を持って小さな一歩を踏み出しました。パソコンが得意では無く、もちろん物語など書いた事がない私がブログ書いて行こうと思います。